伝わらなくて困る…。そもそも何語で話せばいいのかわからない…。在日外国人が増える中、外国人とコミュニケーションを取る際にこのような経験がある方も多いのではないでしょうか?そんなときに役立つのが「やさしい日本語」です!この記事では、「やさしい日本語」が誕生した経緯から作り方、実用例まで幅広く解説していきます。
やさしい日本語とは
やさしい日本語とは、普通の日本語よりも簡単な表現やひらがなの多い文を用いることにより、日本語が流暢ではない外国人にもわかりやすくした日本語のことです。
レベルとしては、日本に住んで1年くらいの外国人が日常的に使うレベルで、具体的には、ひらがなや簡単な漢字を理解することができるレベルと言われています。日本人にわかりやすい基準で例えると、小学校3年生の教科書で習う程度の漢字とひらがな、及びカタカナによる表現であるとも言えます。
ここで、実際に使われている「やさしい日本語」を、NHKのニュース記事を比較しながら見てみましょう。
まず、通常の日本語で書かれた記事は以下のようになっています。
菅総理大臣は、記者会見で「国民の皆さんには、もうひと踏ん張りしていただいて、何としても感染の減少傾向を確かなものにしなければならないと判断した」と述べました。
出典:NHK | NEWS WEB | 緊急事態宣言 医療提供体制の改善急ぎ期限前の解除目指す方針
この記事をやさしい日本語にすると、以下のようになります。
菅総理大臣は「宣言が続く所では、皆さんにもう少し頑張ってもらって、ウイルスがうつる人などを少なくしたいです」と言いました。
出典:NHK | NEWS WEB EASY | 緊急事態宣言 10の都と府と県で3月7日まで続ける
比べてみると、
通常の日本語 | やさしい日本語 |
---|---|
もうひと踏ん張り | もう少し頑張って |
感染の減少傾向を確かなものに | ウイルスがうつる人などを少なく |
というような違いがみられます。
これら2つの引用は、同じニュースの通常版とやさしい日本語版の比較ですが、やさしい日本語版は通常版に比べ、より簡単で分かりやすい日本語になっていることがわかります。また、漢字が読めない場合を考慮し、全ての漢字にふりがなが振ってあります。
誕生のきっかけ
やさしい日本語が誕生したのは、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災がきっかけです。
当時、この震災によって大勢の人が被害を受けましたが、その中には外国人も多く含まれていました。このとき、日本人の死傷者が約1%だったのに対し、外国人の死傷者は2%以上でした。また、震災発生時、日本語で流された情報の意味が分からず、取り残された人や、震災後の生活に困窮していた人がいたことがわかっています。
そのような状況を受け、弘前大学の教授らを中心に考え出されたのがやさしい日本語です。
現在では、災害時に限らず、普段のコミュニケーションにも使われるようになっています。
他言語ではなく日本語である理由
「やさしい日本語がわかりやすいのはわかるけど、本当に日本語が通じるの?」と疑問に思う方もいるかと思います。
理想は、日本に住んでいるすべての人の母語に対応することですが、日本に住む外国人は多国籍化しており、すべての言語に対応することは現実的には難しい状況です。2011年3月に発生した東日本大震災の際、被災地に住んでいた外国人の国籍は160か国以上だったそうです。
日本語の代わりに英語を使うことも考えられますが、在日外国人の出身地を見てみると、上位10か国のうち8か国の公用語が英語ではありません。そのため、英語で情報を発信したとしても、理解できる人が限られてくるというのが現実です。
国立国語研究所が行った調査結果から、理解できる外国語として定住外国人が挙げたのは「英語」が44%だったのに対し「日本語」は62.6%だったことがわかっています。
また、仙台市国際交流協会の報告書には「ゆっくりやさしい日本語なら理解できる。『これからやさしい日本語でながします』を聞くと安心。」という仙台で被災したブラジル人女性の声が記録されています。
母語での対応に越したことはないですが、一度により多くの人に正確な情報を伝えるためにはやさしい日本語が適していると言えるのではないでしょうか。
やさしい日本語の作り方
やさしい日本語は、通常の日本語を簡単に言い換えるという手順で作ることができます。ここでは、通常の日本語からやさしい日本語へ言い換える際の基本原則を紹介します。
以下がやさしい日本語への言い換え7原則です。
① 伝える情報を選択し、必要に応じて補足説明をする
出典:「やさしい日本語」の手引き
・一語一句を元の文に対応させて作るのではなく、伝えるべきことは何かを考え、受け手にとって必要な情報にする
② 一つの文を短くし、簡単な構造にする
・主語と述語を明確にする
③ 難しい言葉は、簡単な語彙に言い換える
※災害用語や日常生活でよく使うことばなど、知っておくとよいことばはそのまま使い、ことばの後に説明を加える
④ 曖昧な表現は使わない
・「おそらく」「たぶん」「思われます」などは避ける
⑤ 文末はなるべく統一する
・「です」「ます」「してください」形にする
⑥ 漢字にはルビ(ふりがな)をつける
・漢字の上や下、漢字の後ろにかっこ書きでつける
⑦ その他
・発音や意味が原語と異なる場合があるので、カタカナ外来語はなるべく使わない、ローマ字はなるべく使わない
・擬音語や擬態語は使わない
・二重否定は使わない
・動詞を名詞化したものは、できるだけ動詞文にする
・文節で区切って余白を入れ、「分かち書き」にする
・元号は西暦に、年月日は「/」は用いない。方言は標準語にする
・時間は12時間表示にする
この原則に従うと、以下の文章は、どのように書き換えられるでしょうか?
今朝、5 時 46 分ごろ、兵庫県の淡路島付近を中心に広い範囲で強い地震がありました。 気象庁では、今後もしばらく余震が続くうえ、やや規模の大きな余震が起きるおそれもあるとして、 地震の揺れで壁に亀裂が入ったりしている建物には近づかないようにするなど、余震に対して十分に 注意してほしいと呼びかけています。 |
弘前大学社会言語学研究室によると、例えば、このように言い換えることができます。
今日 朝 5 時 46 分、 兵庫 大阪などで、 大きい 地震が ありました。 余震〈後で 来る 地震 〉に 注 意して ください。 地震で こわれた 建物に 注意して ください。 |
書き換えツールの紹介
『やんしす』
「やんしす」という名前は、やさしい日本語支援システム(YAsashii Nihongo SIen System)の頭文字を取ったものです。以下のリンクからソフトウェアをダウンロードすることで使うことができます。
テキストボックスに調べたい文を入力すると、難しい単語や文を指摘してくれます。そして、指摘された部分をやさしく言い換えることによって、やさしい日本語になっていくという仕組みです。
『やさにちチェッカー』
「やさにちチェッカー」は、テキスト文書をアップロードすることで、「語彙・漢字・硬さ・長さ・文法」という5つの項目に基づいてやさしさを診断し、わかりにくい部分を指摘してくれます。
また、「やんしす」と同じで、指摘された部分を直していくことでやさしい日本語に近づいていくという仕組みになっています。
実用例
ニュース発信
・NHK「NEWS WEB EASY」
冒頭で紹介したニュースの出典です。日本に住む外国人や、小学生・中学生のために、わかりやすい言葉でニュースを伝えるウェブサイトです。漢字にはふりがなが振ってあり、記事をゆっくりと読み上げる音声を聞くこともできます。
観光のツールとして
・やさしい日本語ツーリズム研究会
「やさしい日本語ツーリズム研究会」は、多言語対応のためのやさしい日本語普及を目指すプロジェクトです。全国のいくつかの自治体では、こちらの研究会と連携し、観光のツールとして「やさしい日本語」を普及させる取り組みをしています。例えば、静岡県はやさしい日本語啓発ビデオを制作しています。以下のホームページから見ることができるので、是非一度、覗いてみてください!
最後に
災害時の情報伝達を行う手段として考えられた「やさしい日本語」でしたが、現在では外国人観光客とのコミュニケーションや外国人住民と日本人住民の交流を促進する手段としても広がっています。次に日本国内で外国人と話す際には、「やさしい日本語」を意識してみてはいかがでしょうか!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
マイウェイ部では、他に「外国人保護者を支えるまちづくり」についても紹介しています。是非チェックしてみてください!
執筆者 さやか
大阪の大学生。大学では英語と日本語教育を学んでいます。学生団体でインターンシップ事業の運営を経験。趣味は旅行とカメラ。マイウェイ部ではライターとして記事を執筆しています。
やさしい日本語は、もはや外国人のためだけのものではないんだね!